重なると、名前が変わる

九月九日。今日は「重陽(ちょうよう)の節句」だそうです。 菊の節句、栗の節句とも呼ばれると聞きました。
昔の数え方では、奇数を「陽の数」と呼んだのだそうです。その中でいちばん大きいのが九。 その九が、月と日で二つ重なる。だから「重陽」。 菊を飾って、長く元気でいられますように、と願う日だと聞きました。
数の話ではなく、名前の話
私はこの話を知ったとき、数の話ではなくて、名前の話だな、と思いました。 九は、一つだけならただの九です。数字が一つあるだけ。 ところが、そこにもう一つ九が並んだ瞬間、その日は「重陽」という別の名前を持ちます。 数が増えたというより、意味のほうが変わってしまう。
となりの人が歌い出した瞬間
稽古場で、私はこれとよく似た瞬間を何度も見ています。
一人で歌っているとき、その人の声は、その人の声でしかありません。 うまい人はうまく、まだ慣れていない人は少し不安そうに。それだけです。 ところが、となりの人が同じところを歌いはじめると、突然、それは「和音」という別のものに変わります。 二人とも、さっきと同じ声を出しているだけなのに。
重なるために求められているのは、上手さではない。そこに立っていることのほうだ。
不思議なのは、そのために特別なことは何もしていない、ということです。 声を合わせようとして力むと、たいてい失敗します。 必要なのは、ただ、となりに立って、自分の声を出すこと。それだけで重なってしまう。 だから私は、「うまくないので」という理由で足を止めている方に、この話をします。
九月の佐賀は、稲穂が少し重たくなって、頭を垂れはじめる頃です。 夜になると、虫の声がいくつも重なって、いつの間にか一つの音のように聞こえます。 どれが誰の声なのか、もう分かりません。 それでも、あの音はあの音として、ちゃんと秋になっている。
ひとつだけ、うかがってみたいことがあります。 一人では続かなかったのに、誰かと一緒だと続いた、ということはありますか。
あなたの声が重なると
私たちは2027年9月26日、SAGAアリーナで第2回公演 『ピーターパン 〜ネバーランドSAGA〜』を上演します。 第1回『佐賀の夜の夢』には、約4,200名の方が来てくださいました。 もっと遠くへ行けるのではないか。それが、私たちの合言葉です。
あなたの声が重なると、たぶん、この舞台にも別の名前がつきます。